「明暗」

 読了。
 面白かった!
 解釈するのに一行を何回も読み返し、考える時間もたまにあったが、ちゃんと分かりながら読めたと思う。

 心理… 互いの心を推し量り、真意を伝えたいと思いながら言い切れず、そしてその互いの推量は大抵異なり、理解し合うことはない── というには短絡的すぎる。心の動きがあまりに鮮明に、物体のように見える、これが漱石の恐るべき筆力、描かれる世界、引き込まれる世界で、充分堪能できた。

 やっと清子さんが出て来て、やあこれからだ、心踊って読んでいたら、(未完)の文字で終わってしまった。信じられなかった。最後に、こんなショックを受けたのは初めてだ。

「明暗」を読むのは三回目で、途中で挫折した初回、読むために読んだのが二回目、今回やっと本当に読んだ。10代、30代、50代でやっと。

 解説によれば「ドストエフスキー的」とあった。文庫本の裏表紙には、「エゴイズム」の文字が。
 我執。
 一人一人が、我を持ち、その我と我から世界が始まっている── 漱石の本の世界も、自分が今いるこの世界も。
 その我の在り処、心が面白いんだな。
 けっして理解し合うことはなく、すれ違ってぶつかるばかりであっても、そうして存在がある、在ることを自覚するという…