「さて、きみはそろそろ死ぬのだが、今、天国行か地獄行か、キップの発行に手間取っているところなのだよ」
「あ、そうですか」
「この世で、きみはずいぶん苦しんだ気になってるね。
自分を苦しめることは、自分以外の者も苦しめることになる。
とすると、きみはあまり、徳を積んでいないことになる」
「そうですか」
「きみの行き先は、もう決まっているのだがね。
いちおう、本人の言い分も聞いておけ、とお上から達しが来てね」
「はあ」
「何か言い残したいことはあるかね」
「べつに、とくにありませんや。今までも、言いたいことならいっぱい言って来やしたし。
どこにでも、お好きなところへ連れてってくれて構いまへん」
「そう言うと思ったよ。特に、どこへ行きたい希望はないのかね」
「へえ。ありません。どうとでもしてくだせえ」
「まあ、またお前はここへ来ることになるのだが。
ここは、お前のようなどっちつかずの半端者が来るところなのでね。
… それまでの時間、とりあえず宇宙に行ってもらう。
あの世もこの世も、じつは宇宙にあるのでね。まぁちょっとしたリハビリだ。
で、ここでまたお前は試されることになる。一回目の試用期間は終了、ということだ」
「なんか、三回目か四回目の気がします」
「何回やっても、べつに構わないよ。もうちょっと、健康に気をつけておればよかったな、今回は。
まあ、どっちにしても死ぬのだが。あと、もうちょっと、ひろい心をもっておればよかったな」
「はあ」
「まぁお前はきっと地獄を望むだろう。天国じゃ申し訳ねえと言って。
といって、エンマさんや針の山や血の池では恐れをなし、涙を流すだろう。
なんでこんなことになったんだろう、と訳も分からずに」
「へえ」
「一定のリハビリ期間を修了したのち、お前は朝が来るように起き上がる。
宇宙は暗いからね、ここで目を覚ますことになるだろう」
「…」
「じゃ、そういうことで。
一応、お前がこの世であれこれ考えていたらしいことは、お上のほうにも伝えておいた。
結局、お前、考えすぎていた、ということになるだろう。それが人間というものであったにしてもね」
「はあ」
「じゃ、またな。お達者で」
「はい」