無意味であるから、意味を付けられる。
 無は、無であるゆえに、あらゆるものを受け容れる。

 人間にも、無がある。無への意識がある。無から生まれた、なごりがある。
 それは、他を受け容れるものだ。荘子のいう、鏡である。

 鏡は、他を取り入れ、映し出す。
 だが鏡自身は、自分を映すことができない。自身を、受け容れることができないのだ。

 他者と自己の関係、自己と自己の関係は、このようなものだ。
 我の強い人間は、他者を否定する。否定する他者がいなければ、我もないように。

 無である意識をなくした者は、諍いをはじめる。人の歴史の、その最たるものが戦争だろう。
 その争いの火種は、ほんの些細な、身近なところにも存在する。

 人の在るところ、集まるところに存在する。
 無のままでは、自己がない。そして、無のままではいられない。

 こうして雲をつかむような話になる。