「ちょうどいい」── 中庸である、ということだ。
セリーヌは痩せ細り、極貧の晩年を送った… そんな書き方をしては、まるでぶくぶく太った太鼓腹、脂肪と贅肉で丸々肥えた金満男を「良い」としているようなものだ。セリーヌがそれを求めたのなら、それでいいではないか。おのれの運命としてそれを堂々と受け止め、生きたのならば、それでいいではないか。あっぱれではないか。痩せ細り、極貧の、何が哀れなもんか。
偏見、差別… 蔑視、羨望、「こうあった方が良い」… そんな眼が、ぼくの中にもあったということだ。
完全体? そんな人間、どこにもいやしない、老いれば三本の足になり、産まれた時は四つ足だ、自由な人間? どこにもいやしない、そいつが、身体不自由者が、「あの人は身体が不自由だ」などと抜かす! 不完全な人間が、「あいつは完全じゃない」とぬけぬけ言う。
キレイゴトを言ってやろうか。ただ、たすけあえばいいだけの話だ!
綺麗じゃない、醜いもんどうしさ。… 上から手を差し伸べるんじゃねえ! … 優越感に浸った微笑が見えてるよ… その立派な口髭に!… よだれをたらさんばかりだね!… どっちが乞食かね?
人間にほど遠い人間なんて、いないのさ!
貴様も… お前も… 醜女も美男も蚯蚓も蜥蜴も… 不自由な身体にまとわりつかれ! 鎧の中でしか息ができねえのさ!
え? 言ってごらん… どっちが賤民かね?… どっちが貴族かね?… 贅沢な品に埋もれ、身動きもできぬ豪邸族と、大木のうろに住み、何も所有しない民と?
一人の子どもを、みんなで育てるツチ族と、後生大事に《いい物》を食わせ、小箱に入れた一人娘にご満悦のブルジョワ夫婦のしたり顔と!
要らぬ学を身につけ、《学のない子》を平然と「かわいそう!」と言えるピーマン頭ども… 健康第一の健康フェチ、健康真理教の寝取られ男ども、フェラで男をつなぎとめるさもしい女狂信者ども! 不健康を蔑み、不具者、知恵遅れを《かわいそう》としか感じない同情お化け! てめえの頭の中は緑色のカビでいっぱいだ!… 豊かな森林に見えるかね? ソラ豆大の頭蓋骨、お前らの脳髄はゼニゴケでいっぱいだ…
一度戦争が起こりゃ、単なる肉片さ! 赤い肉が飛び散り! ブロック塀に貼り付いて! 四方八方、脳漿、骨髄のバンクシー!
「この子だけは助けて下さい」? みんな、殺されといて? お母ちゃん、こんな戦争引き起こした、肉片の一片があんたなんだぜ。罪がない? それが罪なんだよ!… 人間のつくった罪なんだよ!… お前も人間だったよな?!… スマホで見ていたあっちの世界が、お前の身に降り掛かっただけだよ… 他人事が自分事になっただけさ… 今更いのち乞いしたって… もう遅いよ… 今度はお前が、眼を覆う惨劇の、涙、涙の登場人物だ… 選ばれし者だったよ… お前の父ちゃんも!… 今は肉片になって戦車のキャタピラにくっ付いて回ってる…
せめてものお慰みは… この世で代償を払えたことだな!… 他人の苦しみを、お前の苦しみにできたことだな!… こいつを知らぬと知るとじゃ… 大違いだ!… つれえ事だな、ほんとうに知るってことはさ… 軽楽ばかりを知ろうとした代償! 芯をくり抜かれたパイナップル頭は、どこに捨てられたか? 産廃、馬のヒヅメ、豚の骨、人間も同じ産業廃棄物、夢の島の果て… 埋め立ての具材と来たもんだ…ホヤホヤ… 湯気立つ生ごみで靴の底も暖かな… 整地された戦地行き… ドローンにぶら下がって… 小荷物となって… 知らないしゃれこうべの隣りに落とされ… こんにちはも言えやしない… おシャレなヘアーも台無しだ… 髪の雨が降る… 黒い、黒い… もう、眼孔だけじゃ見えねえよ… おや、あいつ、動いてる… 生き生きと!… 気取り屋の… 優しい物腰で… 人気者の… 当たり障りのないことばかり言ってた… サイコパス野郎どもが平気でパイプをくゆらし… 闊歩しているぞ… 乾いた血染めの大地を… 何もなかったように… ばかげたちんぽをおっ立てて… インポな平和にボケ果てた腐れナスの死体の上をさ… 威勢よく、一糸乱れず、行儀よく…