「広告代理店は、スポンサーの製品を売ることにのみ関心があるのであって、顧客たる可能性をさまたげるようなドラマを欲しない。
したがって、買い物好きの視聴者に下向いた拍子(ダウン・ビート)のテレビ番組を見せて、その購買意欲を冷やしてしまうようなことは、スポンサーの望むところではない。
そこでテレビ番組は、つねに幸福で明るい上向きの拍子(アップ・ビート)だ。
テレビ・ドラマの作家らしい、苛立ったアメリカ人がそう書いている」
と、大江健三郎は「レイン・ツリーを聴く女たち」に書いていた。
そうか、と、ぼくは思った。
やたら「前向き」だけが全面に押し出されるように「良く」、マイナス志向が眉間にシワ寄せられ首を振られるのには、そんな資本主義、金銭に絡んだことが、強く太く根を伸ばしていたというのだろうか。
なんと胡散臭いアップ・ビートか!
前向きになる、元気になる、それは、金銭には無関係のところのものだろう?
カネの中で、オレは息をしているというのだろうか。全く、粒子・砂塵に埋もれたように、見えないカネ、札束、硬貨にがんじがらめされた巨大な水中で、金魚みたいにアップアップしている。
コイン、だいじだよ、でもね、でも、なんだ。
ネットが広告だらけなのにも、そんな力が働いているだろう。
見る者の購買意欲を掻き立てる、明るく、前向きな、軽い読み物!