夢を見た。
雲の上に浮かぶ小島か、海の果てのようなところに浮かんでいる小島か。
その小島とは離れている、異国の見晴らしのいい洋館に、怪しい男爵を私は訪ねていた。
その男が異様な笑顔をみせると、小石を投げた。
小石は窓を抜け、ぐんぐん伸びて空を抜け、その小島に建っている家のガラス窓を破った。
いつのまにか、私も小鳥のようになって、小石と一緒に、その小島の家に入っていた。
白い部屋。見たことのあるような、懐かしい畳。
「合い言葉は?」と声がした。
「合い言葉は…」私が口ごもる。
「そう、正解」
合い言葉は、「合い言葉」だったようだ。
隣りの応接間に、白い上下の肌着姿の男が椅子に座って、私を見てニコニコと微笑んでいる。
父だった。私は父の腕に、おそるおそる手を伸ばした。冷たいかと思ったが、温かかった。
嬉しくなって、手も握った。やはり温かい。父は優しい笑顔で私を見つめ続けている。
横の椅子には、祖母も座って、やはりニコニコ微笑んでいる。
奥の、見えない方から、「わたしは弱くって」と母の声がした。姿は見えない。
「わたしは弱くって」、これが母の合い言葉なのかなと思い、おかしくて、私は少し笑った。
まさか、父が生きていたとは! 祖母も、母も! 私はぼろぼろぼろぼろ涙を流した。
家の外から、近所の人の声も聞こえた。
家からいなくなってしまった猫の「福」を、誰かが見つけて、つかまえて、家に持って来てくれようとしている。
ああ、福も生きていた…
子どもみたいに、私は父の手を握り、腕をさすりながら泣き続けた。
そこで目が覚めた。
枕がびしょ濡れになっているかと、手で確かめたら、濡れていなかった。
眼をこすると、いつもより水分が、少し多い気がした。