ジタンが日本で販売されなくなってしまって、数ヵ月が経つ。
冗談でなく、悲しかった。あの美味しい、ジタンにしか出せない味。ジタンにしかない味が、もう味わえなくなってしまったからだ。
セルジュ・ゲーンスブールが吸っているので、真似をして吸い始めたのがきっかけだった。
ジョン・レノンも吸っていたことは、後で知った。
とにかく美味しいとしか言えないジタンだった。軽くないタバコだったから、健康面で多少の心配も伴ったが(喫煙の時点でアウトだが)、自分の身体に合っていた。変な咳や喉がおかしくなることもなかったし(他のタバコだと、それがいかにライトでも喉に「後悔」が残った。でもジタンはほんとうに美味しかった…吸っている間も、吸い終わった後も、満たされた、充実した、言えば「生きていて良かった、良いのだ」と思えるような時間だった)── 何としても「その時間を満喫できる」ありがたいタバコだった。
ジタンを吸いながらだと、文章も楽しく書けた。まったく、魔法のようなタバコであった。
彼女と一緒に換気扇の下で吸っていても、ひとりで楽しくなるような。
「すべてを許せる」ような気分にさせてくれるタバコだった。
ああ、あのジタンが、もう吸えない… 本気で僕は絶望した。
自分にとって、ガソリンのようなタバコだったと思う。吸っている時間を満喫し、その後の時間にも心的に準備ができるというか、「前向き」になれる気分にさせられる── そんなタバコ、「生き甲斐」を感じさせてくれるタバコだった。
もう吸えなくなってしまってから、どうも調子が悪くなった気がする。
他の、どんなタバコも、ダメだ、と言ってしまえる。
困ったものだ。
ジタンがなくなって、困っている自分に対して、困っている。