介護の仕事の頃(16)介護の悔悟

 利用者さんに、悪いことをした。そう思う。また、他のスタッフにも。
「みんな、見せかけのやさしさだけど、あんたはほんとにやさしいなあ」…しっかりしたおばあちゃんからそう言われ、嬉しくなったものだった。
 やさしさの意味なんか知らない。ただ、あのおばあちゃんが嬉しそうだったのが、嬉しかった。
「辞めちゃあかんよ。続けていれば、いいこともあるから…」そう言ってくれたおばあちゃんもいた。

 ここを辞めても、介護の仕事は続けてほしい。先輩に、そう言われた時も嬉しかった。
 しかし… 私も歳を取った。それなりに、生きてきた過去がある。真っ白な、ゼロの自分で、言われたことをただ守り、働くことができそうにない。
 ただ、右も左も分からず、「社会」に出たての、無心に一生懸命働いていた頃の自分に、近づこう。そうすることは、まだできる。

 いろんな利用者さんがいた。
 ああ、この人は、きっと気さくで、笑顔を絶やさず、しっかりした人だったろうな。
 ああ、この人はこんな人だったんだろうな。そんな想像が、よく思い浮かんだ。乱暴で、口の悪い人でも、好意的になれない人はいなかった。

 スタッフは、どうして利用者さんと楽しく話をしようとしないのか、最後まで残った疑問だった。
 スタッフどうしで、ラーメン屋の話やどうでもいい飲み会の話ばかりで、全く利用者さんとコミュニケーションをとろうとしなかった。やんわり私がそれを言うと、「下手に刺激与えてもいけないですから」

「こんなラクな仕事はない」という人もいた。
 失禁してしまったおじいちゃんの洋服を、怒りながら洗濯機に入れる職員は、何に怒っていたのだろう? 本人だって、汚したくて汚したわけでない。どうして怒らなければならなかったのだろう?

「利用者さんを、第一に」社訓。

「スタッフどうしの関係のほうが大事です」
「(ボケたひとに)何言ったって、すぐ忘れちゃいますから」
 ヒトは、モノ。

「Y駅の方にある施設に、今オファーを出しています」と、派遣会社から電話。
 今度の職場に合わなかったら、もうほんとにやめよう。