猫の死と

 毎日いろいろあるわけだけど、先日は少し悲しい出来事と逢着した。
 夜、帰り道を歩いていると、歩道の前方に自転車をとめた1人の若者が、じっとうずくまるようにしゃがんでいるのが見えた。
「どうしました?」と訊きながら、彼の足元を見ると、黒い、たぶんまだ子どもだと思う、猫が横たわっていた。

 高校生くらいの若者は、自転車で通り過ぎる時、この猫が歩道の真ん中で横たわっているのを見て、見捨ててはおけなかったらしい。
 猫はもう死んでいたし、ぼくらはどうしたらいいだろう、としばらく向きあってしゃがみながら考えた。

「どうしちゃったんだろ…」やさしそうな若者が言う。猫に、外傷は見えなかった。
「川沿いにいる猫かな」ぼくが言う。
「ああ、そうかもしれないですね」若者が言う。

 この歩道から数m離れたところの川沿いの遊歩道の雑草の中に、同じような黒い仔猫たちを見たことが何回かある。
 ふたりきょうだいで、ひとりはとても活発だった。

 雨がぽつぽつ降っていて、若者とぼくはまったく途方に暮れた。
 とにかく、このままこの歩道の真ん中においておくわけにはいかない。これが、彼とぼくの、一致するところだった。
 歩道の脇に砂利の駐車場があって、その一角に芝生のある場所がある。

「埋めるわけにもいかないですよね…」彼が言う。
「うん…そこに、移動しようか」ぼくが言う。何か、くるむものないかな…
 ぼくのリュックの中にマフラーがあった。マフラーにくるんで、そっと芝生の上におく。
「できることしか、できないね」
 彼も、これで何か踏ん切りがついたようだった。「すみません、ほんとに」
 いえいえ、こちらこそ。

 猫ちゃん… やすらかに。
 若者、ありがとう、やさしいこころを。