兄にTEL。「来月もうかがいます。」
都合のわるい日はないので、と兄。
なんか嬉しそうだった。セリーヌのことを話す。いい本は、ほんとうに生き甲斐になる…
今朝、「なしくずしの死」も注文してしまった。
何か、ピンと来てね。お、すごいですね。
食事の話、またセリーヌの本の月報に椎名麟三も書いていたことも話す。
椎名麟三もセリーヌ読んでたんだ。うん、似てるもんね。
何て書いてましたか。セリーヌは人間を愛しすぎていたのだ、とか書いてあったよ。兄、大笑い。
サルトルに影響与えたようですね、実存主義という…。
こないだ気づいたのだが、兄とこんな親密に話すのは、約40年ぶりだった。
私が17の時、兄は結婚した。(15歳、年上)
兄はいつも、誰に対しても「です、ます」調で話す。
その結婚を機に、私は何か「兄を、お嫁さんに取られてしまった」気がした。別世界に行ってしまった。兄との部屋、一枚の引き戸は壁になった。
受験勉強、大学、アルバイト… 私も結婚したりして、ほとんど約40年、兄と話なんかしてこなかった。小学を卒業するまで、よく遊んでもらっていた。私の読書・音楽の傾向は、だいぶん兄の影響を受けている。
そのお嫁さん、義姉の死から、また幼少の頃のように兄との時間を過ごす…
お姉さんの死を、悪用してるんじゃないか、って思う。お姉さんが亡くならなかったら、こんな、板橋に来ていない…。こないだ、正直に思うことを言ってみた。
いえ、わたしは嬉しいですよ。長年連れ添った妻をなくし、ひとりになった兄を大変と思って、哀れんで、励ましに、来てくれるんでしょう、ミツル氏は。悪用、と思うのは自由ですが、わたしは嬉しいですよ。ニヤニヤしながら兄が言う。
セリーヌも、兄がいなかったら知らない作家だった。これはほんとうに面白い。ご教授いただいて、ありがとうございます。いえいえ、わたしこそ、料理の教授をしていただいて、と兄。いや、ぼくにはこういう本が必要だったと言うと、ああ、よかった、と笑う。
そう、セリーヌからは、勇気をもらえる。料理、食べることより、自分に必要な。
セリーヌを知れると知れないとでは、大違い。
なしくずしの死… ああ、しかし、ほんとうに、死というやつは。死というやつは!