おそらくセリーヌは、ユダヤ人がヨーロッパを、アメリカを… 支配していくことに、恐るべき危惧を本能的に、作家としての嗅覚として察知したのではないか。
セリーヌがユダヤ人と書く時、必ずユダヤ人とルビが振ってある。
おそらく、全てのユダヤ人が、という意味ではない、という意味で振ったのではないかと想う。人種には気質があるていど共通してあるだろうが…。
セリーヌが実際に見たのか、信頼のおける筋からの情報だったのか、信用できる本の影響なのか、ぼくには分からない。
ただ、どうもそのセリーヌの知ったユダヤ人の勢力はとてもずる賢く、狡猾だったということだ。セリーヌにとっては許せない、許容できない存在だった…。
戦争に絶対反対の立場を貫くセリーヌが、あれほどユダヤ人を憎むとは… よほどのことがない限り、と思ってしまう。差別なんかしたくなったろう、差別だって立派に戦争に繋がる。だのに、セリーヌは本当にユダヤ人を憎悪した…。
セリーヌが、何の根拠もなく、軽々しく、ユダヤ人批判をしていたとは僕には思えない。
どうにも引っ掛かる。ユダヤ人とは何だったのか。
セリーヌは一体何を知り、何を訴えたかったのか。
「夜の果ての旅」「なしくずしの死」、あの調子で書き続ければ、逮捕されることもなく、もっともっと素晴らしい本を世に出したろうに、と想う。貧しくなることも、痩せ細ることもなかったろうに…。
それなのに、書かざるをえない、伝えなければならないものが、セリーヌにはあったのだとしか思えない。人類に対して、人間に対して。
世界中で「禁書」になっている本の内容も、想像がつく。しかしなぜ禁書にならねばならないのか…
セリーヌが、本当に云いたかったこと、… 伝えたかったこと。知りたい。
知ったからって、どうすることもできないかもしれないが…。知りたい。一、セリーヌのファンとして。