難民映画祭を観て

 6本のうち、5本を観た。観ていないのは「ザ・ウォーク」だけ。冒頭の15分余りを観たが、どうもイベント色が強すぎるように感じて、これで90分は冗長に思われ、断念。
「ピース・バイ・チョコレート」はいかにも映画だった。いかにもという内容で、いかにもという結末だった。観ている時はそれなりに楽しかったが、いかにも過ぎた。

「孤立からつながりへ」は面白かったと思う。「思う」と付けるのは、ああこういう人もいるだろう、エネルギッシュで、素晴らしい人柄、活動家のドキュメントで、うんいるだろう、と思ったからだ。それ以上の感想が持てない。いや面白かったと思う。孤立していた、DVに悩む女性たちのうちの一人の表情が生き生きと変わっていった。観ていて、心洗われる気になった。
 ただ、物語として、何か醜い所を捨て、良い所だけ拾っている気がしたのは、気のせいだと思いたい。

「学校をつくる、難民の挑戦」は面白かった。やはりドキュメンタリーで、1時間という長さもちょうど良かった。生きた言葉をちゃんと喋っていたし、どこかやはり美化の部分はあるだろうにしても、とにかく事実に即してちゃんと作られた映像だと思った。良かった。

「ぼくたちは見た ガザ、サムニ家の子どもたち」は、瓦礫はともあれ、子ども達に驚かされた。とにかくしっかりしていて、親や親戚がここで殺された、あそこでもこうやって殺された、と、説明する。心の内は知れないが、少なくともぼくの観たかぎり、感情に揺さぶられているようには見えなかった。
 淡々と、年端も行かぬ子どもが、しかもお父さんお母さんの殺された現場を案内し、その時の状況を説明する── その姿に、まず驚いた。

 インタビュアーが、ぼくには残酷に思えて、やめろよそんな質問、と思いもした。だが子ども達はぼくよりタフだったようだ。いや、そうでないと、常に戦時下であるような場所では、だめなのかもしれない。何とも、複雑な気にさせられた。過酷な状況でないと、〈強く〉なれないのか、平和な状況で〈強く〉なれないのか、と。子ども達の表情、振る舞いばかりが印象に残る映画だった。

 結局、最初に観た「永遠の故郷ウクライナを逃れて」(原題 In the Rearview)が一番面白かった。
 これは貴重な記録だと思う。事実を事実としか映像にしていない。それも「人」が事実そのものなのだった。ウクライナからポーランドへ、ワゴン車で移送する運転手が監督である。後ろの座席に乗っている人たちがいろいろと話す。それをただ録画しただけのもの、といえば、そうだ。

 だが、何としてもこれは事実なのだ。何の脚色もない。人がそこにいて、ウクライナからポーランドへ行くのだ。その途中の時間の中で、その人がその人の言葉で、その人の体験を、思いを話すのだ。その人は沢山いて、映像も切り替わる。そのたびに、また違う話がされる。一人一人の体験、思いが違うからだ。

 だが、一番心に食い込んで来たのは、何も言わず、ただ右端に座っていた背の高そうな老人だった。
 「(先に妻がポーランドに行って)携帯電話で『戸締りをしっかり』などと口うるさく言われ、キレたんだ」と打ち明ける老夫の話も面白かった。彼は言うのだ、「爆弾が落ちてきたらおしまいなのに、戸締りをしろだの、家のことを何だのかんだの、うるさいんだ」と。

 この映画をつくった監督は、ほんとうに勇気のある人だと思った。地雷のある道もあり、命賭けだったはずだ。
 ポーランドへ行く車を出すために、運転手から法外な(戦時下に法もへったくれもないにしても)金額を要求され、断念したという人もいた。こんな状況下に、そんなことをする人間がいることに、話を聞いていて腹が立った。