喜捨喜入

 鏡なんか見ない方がいいよ。
 それより人と接することだ。リアルに! その方が、よっぽど鏡になるよ。
 何、人との接触は疲れる? 自分の土俵に入って来た人とだけ付き合いたい? 自分に有益な関係しか持ちたくない? 何が本当に自分のためになるか分かりゃせんよ…

 私はね、あなたに死んでほしくないんだよ。独りで鏡見て、シワの数なんか数えるんじゃない! 素敵なもんさ、切らないで見える年輪だ… のっぺらぼうじゃあるまいし! 化物より、生きの人間が俺ぁ好きだね!

 時計もあんまり見るもんじゃない。カレンダーも誕生日も糞くらえだ。何より鏡だ! 鏡はもう物置に仕舞っちまえ。見たとしても、コーディネイトのため! コーディネイトはこうでねぇと! 衣服のためだけに見るんだよ!

 何、昔のように動けなくなった? 老いたくない? 近未来が怖い?
 子どもの時だって知らなかったろうよ、未来! それでもあんたは生きて来たんだ、立派どころか、奇跡も奇跡、超絶アメージングストーリー! とんでもないこった!
 何も憂うことはない! 今までだってそうだったんだから!

 憂鬱に飲み込まれて死ぬんじゃねえぞ、畜生め! 下の世話だって何だってしてやるさ… 〈もうやめて〉って言うぐらい!
 え? 共倒れする? いいじゃないか、いいじゃないか、おっ立って来たんだから、二人で今まで! それも運命なら吞み込んでやろうじゃないか!そのためのノドだ、足だ、手だ胴体だ…

 動けなくなるまで! 動けなくなるまで! それまで、動こうとすることができる… 何と尊い意思、生命のはたらき…
 自然、老いだろうが何だろうが本当に動けなくなったら、寿命だ、万歳!