ないものはない

 ところで、金がない。困ったものだ。もっと、あるかと思っていた。昨日、「定額貯金自動継続のお知らせ」が来たので、見てみたら、「これが現実だよ」というふうに1やら0やらの数字が並んでいた。(まだ、数字はあった)

 そりゃ、働いていなけりゃ、金はなくなるわな。
 これも、好き勝手なことをして生きてきたまでのこと。と、さばけて明るくなれるほど、私、人間、できていない。
 しょんぼりして、昨日1日、寝込んだ。

 今朝、夢を見た。家人とふたり、海のほうへ電車で向かった夢。奈良に海はない。どこの海だったのか。
 きらきらした車窓、明るい陽射しばかりが舞い込んで、何の心配もない、幸せそうな車両に揺られ。

 台所からの物音で、現実に目が覚めた。ねている私に、笑顔が落ちてきた。「行ってきます」彼女はパート先に向かうのだ。

 ふいに、(私の貯金残高はこれだけだが、彼女は一体いくら貯金しているのだろう?)
 そんな想念が頭をかすめる。この家には、一体いくらのお金があるのだろう?
 何か、そんなことを考えるのはよくないような気がして、ふたをする。

 とにかく私には金がない。このままでは、あと1年半ぐらいで底をつく。
 作家になど、なれるわけがない。食っていけるわけがない。生活の、糧のよすがが、どうしたところで必要だ。しかし…

 √ どうせ死ぬなら、生きなきゃソンソン… 民謡を歌う、女の甲高い声が、頭に聞こえる。