大江文学にハマッたのは、40歳の頃だった。
言葉、言語、文字、この表象の世界、大江健三郎が醸し出した象形の世界、象徴された世界に心地よく飛んで、遊んだ。
その世界が、とにかく気持ちよかった。
「我らの狂気を生き延びる道を教えよ」が、僕にとっての大好きな作品だ。新潮文庫。
「アグイー」「芽むしり仔撃ち」「飼育」「同時代ゲーム」「新しい人よ眼ざめよ」…20冊くらい、大江健三郎が、本棚にひっそりとある。
大江さんは難解とか言われるが、難しいとか簡単とかでない、ただ気持ちがよかった。あの世界、文字を追うことの楽しさ。よくつまずくことがあっても、なお読もう、読みたいと身体が要求した。
社会的な活動。
机にへばりついた文字でなく、生きた言葉。
寂聴さんが去年かに亡くなって、大江も死んでしまった。好きなひとが、どんどんいなくなっていく。
平和とか、戦争… そういうものに、しっかり、はたらきかける生きたひとが、どんどんいなくなっていく。
しっかり、生きたひとが、いなくなっていく。