身体は知らない

 知るのは頭であって、身体は何も知らない。

 身体は考えない。身体は、ただ身体としてあるだけである。

 身体が、頭へ、伝えることはある。

 痛みとか、くすぐったいとか。不快とか快感とか。

 そして顔が笑ったり、しかめっ面になったりする。

 喉からケラケラ声が出たり、うんうん唸る音が出たりする。

 耳がそれを聞き、つられて笑ったり、目から涙が出たりする。

 身体は、身体としてのそれらの機能を果たしているだけで、特に意味を持たない。

 これに意味を持たせようとするのが、思考する頭だ。

 頭がある限り、また苦楽を感じる心もある限り、私はきっと考え続ける。

 考えたくないことでも、考え続ける。それが頭の機能であり、感じる心の機能であるからだ。

 だが、この身体は。

 この身体は、何も考えていないのだ。

 だから身体は、何も知ることがない。

 知らないうちに生まれ、知らないうちに死んでいく。

 それが身体の運命だ。

 この身体に宿っている、ヤドカリみたいな私にできることは

 せいぜい、この身体を大切にすること

 この身体を生かしている時間 環境、人、その他諸々の、いのちみたいなもの

 この「今」を

 できればぜんぶ、大切にしたいものだが。