言葉さん、さようなら

言葉に重きを置いてきたつもりだが。
「ぼくら、よわい人間どうしなんだから
 せめて言葉には誠実であろうよ」
そう言った厭世作家の声も聞いたが。

「こいつらは読み書きもできない野蛮人だ。
 言葉も知らない、しゃべることもできない下等な奴ら
 殺せ! 抹殺せよ!」
 号令かけて、いざ突撃。
 虐殺と侵略。
 どっちが下劣で野蛮だよ。

 「この子たちは学校にも行けない、学ぶこともできない
 かわいそうな子ども達なんです!」
 アフリカでマイクを持って そんなレポートをするタマネギ頭もいた
 お前が何を学んだというのだ? バカめ!

 言葉なんか使わない
 それでも意思の疎通ができる
 テレパシー? HA! 何とでも言え、言葉の牢人!

 その次元に人間は行けない

 いや、できていたんだよ
 忘れちまったんだ
 物質に、モノに、形に、殺されたんだ

 ほんとうに奪われたのは
 生命でなく
 魂だった

 いつまでたっても変わらない
 ずっとずっと人間の中で人間だ
 越えることのできない壁を自らつくって
 モノに、言葉に、かたちに流されて
 人間であることの限界灘で
 ああだこうだと言葉を駆使、四苦八苦
 
 どうしたら伝わるか、
 どうしたら伝わるか
 そんなことばかりに捉われて
 技巧に走って
 上塗りに上塗りを繰り返すんだ

 どんどん遠ざかっていくね

 さようなら、言葉さん
 お前は何もわるくないよ