言い分

 私は医者だ。

 仕事をするなら、医者に限るよ。特に心療内科系のね。天下泰平、万々歳のお仕事さ。

 身体の病と違って、心の病は目に見えないからね。実に、都合がいいのだよ、こちらとしては。

 研究も進んでね── 顕微鏡で見えるものでもないんだが── この場合はこう、この場合はこう、と病名をつけた。細分化したのだよ、きめ細かくね。

 だからきみも私のところに来れば、いっぱしの病人になれるよ。それが私の仕事だからだ、病名を与え、いっぱい薬を与えるよ。

 不可視な心に、可視の薬、ほんとはハタケ違いなのだが、そこは大人の事情でね、製薬会社とは切っても切れない、くされ縁があってさ。こちらとしても、仕事なので。

 心は物理的なものではないのに、物理的に対処する。それも、こちらの特権でね。非論理的なもの、非科学的な心に、論理・ある種科学的なモノで対処する。まぁ、あてはめるわけだよ、この場合はこの病気だ、というフレームにね。そのために、細分化したんだから。

 まじめで、よく気の利く、素敵な人ほど、病んでいるね。そういう人が、生きにくい社会である。そしてこの社会、一向に変わらない、変わりそうにない。どんどん悪くなっていくだろうよね。私も、笑いが止まらないよ。

 因果な商売さね。でも、私にも良心あるよ。そのために神をつくったのでね、いにしえの人達が。おかげでバランスがとれている。許して下さい、あの人を助けて下さい。散歩中、お地蔵様の一つでもあれば、必ず立ち止まって手を合わせているよ。

 私の、そもそも手に負えるものではないからね。人の心なんて。でも、需要があってしまうんだ。困ったものだよ。来る客が増えれば増えるほど、私は神に祈ることになる。私自身が、あの十字架に磔にされた人みたいだよ。

 うん。狂っているのは、実は私なんだよ。ここに来る、たくさんの患者でなく。だって患者をつくっているのは……