(19)一家に一枚、離婚届。

 知り合いのお医者さんの奥さんが言っていた。
「夫婦生活はね、破れた障子を貼り直し、また破れて、また貼り直し、その繰り返しよ。うちにはね、いつも離婚届が置いてあるの。そのくらいの緊張感がないと(ダメ)、ねぇ(笑)」
 まだ結婚したてだったぼくは、うーん、そういうものか、と感入ったものだった。

 離婚届。
 その後、実際に判を押したぼくとしては、実は婚姻届も離婚届も、たいしたものではない、というのが実感である。
 ほんとに、そんな、たいしたことではない。
 結婚とか離婚とか不倫とか、そんなものより、大切なものが、あると思えてならない。

 ただ、緊張感はだいじかもしれない。あるていどの緊張感がないと、ダラケる。
 キッチンの食器棚なんかに離婚届が常時置いてあったりしたら、「あ、ウワキはイカン」とか「このひとをだいじにしよう」とか、イイ感じの緊張感が芽ばえるかもしれない。

 新婚の方々に、申し上げたい。離婚届、常備しましょう。
 さりげなく、いつもそこにあるように。忘れてはならない、大切な何かのために。