行為中の頭の中

 長持ちさせようとして、頭の中で因数分解のことを考えたりしていた。
 宇宙のこととかも考えていた。
 要するに、射精を遅らせようとしていたのである。

 ということを、ある女の人に言ったら、
「え~っ、なんでそんなこと考えてんの」と非難された。
「女の子はね、長くとか短くとか、関係ないの。そんなことより、愛されたいのよ。ほんとに心から、愛されて抱きしめられたいのよ」みたいなことも言われたと思う。

 だが、ぼくには、その「ほんとに心から愛して抱きしめる」が、難しかった。
 とにかく、その行為中の、自分の「長持ちさせたい」心理を書けば、
 1)そのほうが、相手に気持ち良くなってもらえる
 2)ソーロー(!)だと思われたくない
 3) 自分の気持ちよさを長続きさせたい
 この三点に尽きると思う。

 どうも、女の人から見ると、そんな、あの繰り返し運動は、そんな長くなくていいという意見を、他のひとからも聞いたことがある。
 いわゆるAVをよく見てきたから、ぼくの頭がスポイルされてしまっていたようにも思う。
 そう、そんな、行為の長短などより、大切な、やっぱり「心」みたいなものがある。

 その行為中を、客観的にみれば「いかにもケモノまるだしで、醜い」と、中学の頃は本気で嫌悪していた。だが、性欲は性欲として、やはり、あった。
 でも、思い出してみる。ほんとうに好きになった相手に対しては、ぼくはその性欲の対象として、よからぬ想像をしなかった。しようとする自分を、イカンイカンと食い止めた。相手を、汚してはいけないと思ったから。

 そうなのだ。ほんとうに、性欲だけの対象なんかにしては、相手に失礼というか、いやな気持ちになるというか、「それは違う!」と、もうひとりの自分が強く訴えていた。
 気持ちって、伝わると思う。
 ただの性欲の対象にしては、つめたい気持ち(自分だって、自分がつめたい気持ちでいることが分かる)が相手に伝わる。その気持ちは、とても、全然いいもんじゃない。
 プラトニック…精神的なものが、基本なんだ、何をするにしても。