「夜鳴きしなければ、ほんとに良い猫なのにね」家人が言った。
まったく、夜鳴きさえしなければ、福は完璧な猫だった。
家の襖や柱を爪で傷つけることもなく、食卓に刺身があっても、手を出そうとしなかった。
「爪はダンボールで磨ぐ。あれは人間の食べ物。これが自分の食べ物。」と、福の中できっちり分別されているようだった。
トイレに関しては特に厳格で、用を済ますと必ず「早く片づけて」とニャアニャア言った。
友人が遊びに来て、5、6時間部屋にいた時、福はずっと押し入れに隠れていた。
だが、突然低姿勢でトトトと出てきて、トイレに行き、用を済ますと、またトトトと押し入れに戻って行った。
「福」と呼べば耳を動かし、「ご飯」と言えば振り向いた。
「掃除するよ」と声を掛けると、ニャアアアと抗議の声をあげ、押し入れに入って行った。
「行ってくるね」には、玄関マットの上であのドタッをして、私たちを行かせまいとがんばった。
容姿については、お腹のたるたるを除けば、実に美麗、この上なかった。
短毛の純白、雪のような純白な毛に全身が覆われ、唇と鼻、耳と肉球だけがピンク色だ。
そして左目はブルー、右目はゴールドである。
その目の縁は、アイシャドウをしたようにキリリと明確に黒く縁どられ、鼻は「ジャングル大帝」のレオのようにツンと高く、品がよく、総合的に凛とした顔立ちだった。
その両目の下の毛は、左右に外へ向かっていて、小さな不死鳥の翼のようで、神秘的だった。
「獣王」「獣神」というものがこの世に実在するとしたならば、このような毛によって神格化するのだろうと思われた。
尻尾は、胴と同じくらいの長さで、歩く時はピン!と直立し、眠る時は身体に沿って弧を描き、その可愛い鼻や目をアイマスクのように覆った。
「肥満傾向の猫用フード」を食べてもらい、体重の加減も小康状態を保っていた。
福は、20年は余裕で生きるだろう。
私は、そう信じていた。そう、思いたかったのだ。