夏だった。うまれて初めて、本気で、ある女の子を好きになって、告白したいと考えていた。
けれど、告白したら、もう、友達でいられなくなるという状況だった。
相手は、そんなぼくの気持ちには、まるで無頓着で、自由そうに見えた。
で、ぼくはひとりで、彼女の一挙一動、一言一句に、神経を研ぎ澄まして、いちいち傷ついた気になったりして、それでも、やっぱり好きだった。
ぼくは、告白後、「フラレる」準備をするように、このアルバムを聴いていた。大滝さんは、フラレる歌が多かった。
「オンナなんて、コンナモンダ」といった、けしからぬ「上から目線」、どうせフラレるんだというあきらめの目線を自分に植え付けて、せつない時間を乗り切ろうとしていた感がある。
でも、同時に、そこには恋する心の甘味処もあって、結局、大滝さんの優しい綺麗な声とメロディに心を寄せて、そして大好きな彼女のことを思い思い、このアルバムを聴いていた。
このアルバムの前に発売された、「LET’S ONDO AGAIN」というアルバムが、実は大滝さんの音楽の、完成形だったように思う。
音楽は、楽しいもの。人を、happy にさせるもの。それには、つくり手が、まず楽しもう… そんな姿勢で、大滝さん、音楽をつくってきたんじゃ、ないかしら。
この「LET’S ONDO AGAIN」は、繊細な冗談のようなアルバムだ。大滝さんが亡くなって、ピーター・バラカンさんがNHK-FMの番組で特集をした時、「これ、ぼく大好きなんです。部屋で聴いていて、ひとりで笑ってしまうんですよね」と言っていた。
ああ、この冗談みたいなアルバムを経て、あの不朽の名作「A LONG VACATION」に、大滝さん、行けたんだな、と思った。
ぼくの恋は、本気の、恋だった。初めて、ひとを好きになる、苦しさを知った。
大滝さんには、ずいぶん、たすけられた。