受容の人(1)

今も戦争が行われているね。

うん。あれも相手をどうにかしようと躍起になって…
自分で自分をどうにかすること、これが先決だったのにね。
自分と違うからって、それを排除したり攻撃しようとしてさ。
尊重するということ、そんなことは今や風前の灯火さ…
人間の中にある嫉妬心、恨みの気持ち、自尊心、これらは元々あったものだ。
戦争や日常生活の人間関係のギスギスさは、こんな「中」から始まるのさ。

自尊心はあっても他尊心は無いわけだ。

他を尊ぶと、ツケあがる奴がいる。
尊ばれて、猿みたいにキャッキャッ喜んでさ。
どうして自分を尊んでくれたんだろう、と考えない。
ただ喜びのトリコになるんだ…
そしてクセになる!
私を尊べ、私を尊べ、と…

それじゃ何にもなんないね。
相手のことを何も考えていない。
自分が喜びたいだけ!
なんと情けない…

でもそれが世界なんだ。
キレイゴトだけじゃ、それこそ何にもなんない。
自分のことだけを考えて
自分の思い通りになれという欲求・要求だけで…
ずっとそうなんだよ。
そうしてずっと争って来てるんだ。
人間の歴史は戦いの歴史だよ…

そうやって繰り返すことを、愛しく思えないだろうか?
ぼくはこの頃、愛しく思えるよ…

そりゃ超人だな! いや、何かの境地に行っちゃってるな。
ほんとかい? そんな、愚かなことをする人間どもを愛しいだなんて…

この人の得意技は「受け入れること」なんだ。
相手をそのまま、ありのままに…
受け入れられた相手は無力になる。
実験してみるといい…
ほんとうに「他者は他者である」とするんだ。
それを認めること。
それだけさ!
すると相手は、どんな意地の悪い奴でも、君を何とも思わなくなる…
少なくとも君と相手の関係は、波風立たなくなるだろう…

そんなこと、あり得るのかねぇ…

僕は自分のストレスに鈍感なだけだよ。
だから僕に愛されたいと願う人は、物足りなく感じるよ…
冷たい人間だと見られているかもしれない。
でもそれはその人の僕であって、僕はここにいるんだからね。
その人がどう思おうと、僕は特に何とも思わない。
その人の僕を認めるよ。

冷たい奴だな!

でもこの人のまわり、この人と関係する人は、冷たさ・物足りなさを感じながらも、だから離れていく人もいるけれど── そりゃどんな関係だってそうさ──、けっして不穏な空気にはならないんだ。
といって、人間に無関心なわけでない。
思うに、この人は「自分だけの本当」に生きていない。
「自分の中にない本当」に生きているんだ。
「真実は一つでない」といつも言っている。
本はいっぱい読んでいるね。
治験のバイトをしている。
「えっ、こんなでかい薬飲むの?」って聞いたら、
「飲み込むのは得意ですから」って笑って言うのさ…