── 考えてみれば、お前は「お兄さんっ子」だったな。
── 本棚にあった「世界の名著」、大江、漱石、ドストエフスキー…
レコードも兄はいっぱい持っていた、矢沢永吉、吉田拓郎、中島みゆき、荒井由実… セルジュ・ゲーンズブール…
── それらを読み聴きして、お前は精神的に育ったと言っていいな。
15才も歳が離れていたら、兄弟というより、親子のほうが近そうだ。
── 身体の成長は、親が食わしてくれた…
でも精神、思想的には、兄の影響がでかい。
といって、兄にどんな思想があったかといえば、特にコレというものは…。
こっちが勝手に兄の本棚から本を取って読み、ステレオでレコードを聴いていたのさ。
だいたい兄は冗談しか言わない人だったからね。
でもチャンとしていた人だった、嘘をつかぬ、こちらの心のようなところをチャンと見てくれているような、そしてまわり、社会的なものもチャンと見ているような…。
それもこっちが勝手にそう感じていることでね。
── 実際そういうもんなんだよな、関係というのは。
あらゆる、人との関係というのは。
ひとりでその人のことをあれこれ考えて。
一人合点、一人相撲、一人でああだこうだとやっているのさ。
キルケゴールに言われるまでもなく、人との関係は自分自身との関係なのさ。
── しかし東京は楽しみだな。
また行くんだろ?
── うん、二日間だけね。
会える時に会っておかないと。
── なんでもそうだよな。
生きてるうちの話だ。
なんでもそうなんだ…
── この下田逸郎もお兄さんの影響だな。
「さりげない夜」が僕の一番大好きなLPでありタイトル曲なんだけど、youtubeに無いんだ。
で、「緑の匂い」にした。こういう曲を唄える人、なかなかいないと思っている。
いのち、生命… そういうのを、ずっと唄ってきてると思える人で… 何百曲も作ってきた下田さんだけど、こういう唄い手は、この人以外オレは知らない。
下田さんは、ずっと下田さんなんだよな。
あ、「あの時はどうも」も…。