人を殺すことを夢想していた人も、自殺を夢想していた人も、せんずりかいてた奴も明日のことを考えて憂鬱になったりニヤけていた女も男も… ほれ、みんな木っ端みじん、跡形もなく無くなっていく!
もう言葉も発せない… あれほど嘘をつき、あれほど人を酔わせ、あれほど人を振り回した我々が!
時に歓喜に導き… 時に悲嘆に暮れさせ、時に何の役にも立たなかった我々が! しっかり時を経た、時だけが確かなもの、これ以上も以下もない… 以下、以上、上下斜めをつくったのは人間どもだ… なんとけなげな!いとおしい…
501、301、202、405… さざめく、さざめく! これ以上も以下もなく! まわりを思いやることもなく! 重い槍だけを持って! さっさと責め立てる… ここは自分の陣地! 人智を越えた野性の証明、いざ! こっちの思い通りになれ! 聞く耳を削げ! なんという残虐さ! これが人間の正体か…
そこにいては危ないぞ! 出口に、入口に… 同じことだ… こっちの言うことを聞け! 殺到する、人が殺到する、一団の塊になって…
ここは単なる人の住処だ… それだけのために建てられた! 仲良く暮らせばいいものを… よくもまぁ、あっちこっちで! ここかと思えばまたまたあちら… 注意、注意! 観念の化物どもが! 災い大好き、これ幸い! 好きこのんで文句を言うために文句を言う… そして言い合う! 我々を! こき使って!
抜け殻ばかりだ、我々の。エントランスに、エレベーターに、階段に… 抜け殻が積もって!
廊下にも… これじゃ歩くにも…
走ればいい? ありがたいアドバイス! 口だけ男、口から生まれた男、抜け殻そのもの…
熱い、熱いぞ! 熱風! 爆弾が落ちたんだ… 6階があった! あんな所から落ちてくる… もっと上から! われわれ目掛けて… あいつ、作ってたんだ、あんな爆弾を! ついにその気になりやがった! 103、504、303… そんなのあったっけ? みんなどこへ行ったんだ? たしかあそこには…
あれはお前の幻影だ… 幻影だった! もう流れた、とうに昔のこと… とっくに流れてる! それなのに、ああそれなのに! お前はそれを今と思い… そいつを見ている!
そいつはそいつじゃない、お前の中のもんで… そいつはそいつとしてそこにいるんだ。お前が見ているのはそいつじゃない!
おや、おや!… あいつはもう死んでいたのでは? なんでいるんだ、あんなところに! プラタナスの国道… あのマンションのあった所の通り沿いの… 一本の木の下に… 見えるか、お前に? 網膜をかっ開け… 見えない? ああ、ああ! そうだ、これは見ていることにならない… これは見ていることにならない、見えてなんかいないんだ… 見えていない、見えていないんだ… それでもお前は〈見えている〉と言う!