つまらぬことを、つまらぬまま書こう。
先日、「南都七大寺」の1つ、大安寺という寺へ行った。
暑い昼の真っ盛り。歩いて、小1時間かかった。
その帰り道、老婆とすれ違ったのだ。
畑が左右にあり、公道ではあるが、そんなに広くない。
人が横に4人並んで、ちょうど歩けるほどの幅である。
前方から、老婆が歩いて来るのは見えていた。
老婆にも、私が見えていただろう。
しかし彼女は、まるで私を見まいとするように、麦わら帽子を顔が覆われるほど深く被っていた。
私は男である。公道には、私と老婆以外、誰もいない。
彼女の気持ち、不安ではあるまいか。通り魔だのあおり運転だの、わけのわからない事件も多い。
挨拶しようかと迷ったが、見知らぬ男に挨拶されて、よけい彼女がビビったりしないか。
私は、すれ違うのが怖かった。
老婆は、相変わらず私を見まいとしている様子だった。
私も下を向き、彼女を見ないように、歩いていたつもりだ。
おたがい、無言のまま、すれ違おうとした。
その瞬間だった。
老婆の鋭い、刺すような目線が私に向けられたのを、私は見た。
私は、傷ついた気持ちになって歩いた。