朝。ダイニング・キッチンの窓を開けると、フクがシンクの上にピョーンと乗ってくる。
洗い終えた食器の横でお座りをしながら、網戸越しに外を見ている。
スズメがチュンチュン鳴いている。遠くには、心電図の波みたいにかたちどられた山の陰影が見える。
その上に太陽。空は、山のそばは薄いピンク色。上に行くに従って、白くなっている。
フクはずっとお座りしながら、この窓の外の光景を見ている。
長い尻尾は、くるりと回って両足の上にその先端を置いている。
新聞配達員が通ると、フクは急いでシンクを降りて警戒の態勢に入る。
フクは、雪のようにきれいな毛をした猫で、ぼくはその横顔が好きである。
ツンとした感じの小鼻。その下にある、我慢強そうな口もと。
きっと猫族の中でも、美猫の部類に入ると思う。親バカである。
耳は薄いピンク色。肉球もピンク色。左目が薄いブルー。右目が濃い金色。
なんでお前、目の色が違うんだろうねぇ、と話しかけても、本人だって分からない。
フクは甘えん坊のくせに、甘え方を知らない。膝の上に乗ってきたことがないし、添い寝することもない。
もっとも、7キロ近くある体重で乗られても苦しいのだが。
生後3ヵ月でもらった時から、骨格が太くて腕も太く、大きな猫だった。
予防接種を受けに獣医に行ったら、「ちょっとしたトラの子くらいになりますよ」と言われた。
現在肥満気味なのは認めるが、元来大きな子だった。
しかし猫がこんなに可愛いものだとは思わなかった。
人間に従順すぎるかのような犬が、その従順さ故に哀れに感じるようになってしまった。
猫と犬、人間へのアプローチの仕方が違うだけなんだろうけど、今や完全にネコラーと化してしまった。
今フクは外を見るのに飽きたらしく、ぼくを見ながらお座りしてニャア、ニャアと鳴いている。遊んで、と言っているのだ。
もう寝たいんだけどナ…。
フクにはいろんなことを話しているが、毎日欠かさず言っているのは、「元気でいてくれてありがとうね。ありがとう。」である。