「なんにも、言いたいことは言えなくて、別れ合うんだろうなぁ」
「言い合ったところで、通じ合わないなら同じことよね」
「合っているのに、合わなくなるんだね。肉体関係がなくなり、精神関係がなくなり、… 結局ぼくたち、何を関係していたというのだろう。どういう関係だったんだろう」
「何もなかった! それに尽きると思うわよ。何もなかったように、何かあっただけでね。時間を埋められた、それだけで」
「それでヨシとしようかね」
「いっさいは、過ぎてゆきます。情死したあの作家、うまいこと言ってたもんよ」
「時間でしかなかったね」
「うん、時間。時間だけなのよ」
「そのうち、時間そのものになっていく。時間を感じることもなくなって。時間ですらない、無?のなかに、みんな行くんだ。誰もが、誰もが!」
「ただ一つ、本気で言えることは、『ありがとう』ね」
「うん、そうだ、まったくそうだ。ありがとう、だ」
「ありがと」
「ありがと」
今まで、今まで。
嘘偽りなく言えるのは、それだけだね。
それだけ。
ねえ。別れるって、分かれることじゃ…
ねえ。ただ「分かれる」、それだけなんじゃない… かもね。