そうだね、まあ…、「死にたい」という女の子が現れてね。その、学校帰りに寄ってくれる友達の一人にさ。
断っておくけど、彼らは普通の子たちだったよ。特にその彼女なんか、隣のクラスで学級委員長をやっていたらしい。
彼女、コクヨの大学ノートで、私たちと交換日記みたいなのを始めたんだ。彼女は、そのノートに詩とか、自分の「今考えていること、感じていること」を書いて。
で、私たち──たちと言っても、その日一人に渡し、次の日に彼女に返す具合に回っていたから、順番があるわけだけど。私に、そのノートが渡されて、みんなが帰ったあと読んでみて… あの時の衝撃ったら、なかったよ。「死にたい」って、彼女、書いてたんだ。
もちろん、そのページには、私に回ってくるまでに読んだ人の書き込みがあった。
「わたしもそんな時あるよ」とか、「がんばろう、でも」とか。
しかし私は… 嬉しかったねえ! 心底、嬉しかった。嬉しかったよ。だって、私も死にたかったんだから。
いくら親が「学校に行かなくていい」としてくれていても、つらかったからね。学校の教科書なんか開くことはなかったし、成績もへったくれもない。高校進学なんか考えられない。でも高校ぐらい出ていないと、って、私だって思ったからね。
中学を卒業できたとして、それから先どうなるんだろう? 自分はどうするんだろう。こう考えただけで、もうお先真っ暗さ。生きて行けない気が、本気でしたよ。
無職ではいけないと思っていた。進学しないのだから、働くしかない。でも中卒で働けるほど、ヨノナカ・アマクナイ、ってね。専門学校なんて考えもしなかったな。「学校」ってところに、自分は絶対合わないんだ、って痛感していたからね。
もう少し、この話、していいかな。
まったく私は、ひとりだったんだ。カッコつけて言やあ、孤独ってやつだ。「みんな」ってのは、なんだか絶対的だったよ、それこそ。みんな中学に行く、高校に行く。でも自分にはそれができないんだ。
やっぱり死ぬしかないな、と思ったよ。
ところが、私と同じように「死にたい」という人が現れたんだ、そんな時に。
もっとも、彼女の場合は、高校行って大学行って、就職して結婚して…と、もう決まっているような将来を嘆くみたいに悲しんで、いやになっていたようだった。つまらない、ってね。
でもそんな動機は、どうでもよかったんだ、こっちには。「死にたい」、そう考えている人がこんなに身近にいたんだ! この驚き… 私はもう独りじゃない、って気になったよ。
嬉しかったんだよ、ほんとうに。