閑話休題

 何が本題だったか。
 さしあたり、朝な夕なにセミが鳴く。ワシャワシャ、ジージー、すごい声量。明け方あたりに、あ、今生まれたな、という声も聞こえる。ジッ!ジジジッ!
 ずっと地中にいて、何年も前に生まれていたのだろうが、セミとしてこちらが認識する形になって。
 生まれたばかりの(羽化しばかりの)セミは本当に真っ白だ。木の上から土に落ち、そこから地下へ地下へ、じっと地中にいて… 長い時間をかけて羽を持つ身体になって。
 そう考えると、よくやったね、と労いたい気持ちになる。嬉しい気持ちになる。すごい奇跡のような… ジジジッ!

 昨日の明け方、五時前頃に、クルクルクル、キュルキュルキュル、という声が聞こえた。玄関前、家の玄関のすぐ前から!
 聞いたことのない声だった。そっと戸を開けると、何やら白いものを一心不乱に口にする、食事中の動物。しっぽにシマシマが見え、タヌキかと思ったが、タヌキにシマシマはないらしい。身体の色は茶色、目の下にはタヌキのそれのような黒いふちどり。アライグマ? だがアライグマの体毛はねずみ色らしい… タヌキとアライグマを両親にもつ子どもちゃん?
 三匹いた。キュキュル、クルルルル… これはカメラに撮っておこう、と携帯電話を取りに行く。
 写真なんて滅多に撮ったことがない。食事中の小動物を前にモタモタしていたら、先方、こちらに気がついた。
 すると、何やら好戦的な声音に変わり、身を低くしてこっちをニラミつけてきた。今にもこっちに飛びかかって来そうな臨戦態勢。
 はい、すいません、とまた戸をそっと閉めた。

 上空ではカラスががぁがぁ言い、地上ではキュルキュル、クルルルル… 寝床に戻り、しばらくすると声がしなくなった。また玄関を開け、土手(私の家は川沿いで、目の前は土手なのだ)に出てみると、白い、手のひらほどの貝殻のような、サラダボウルのような、お皿のようなものが一つ落ちている。そこにハチが一匹、奥の方に顔を埋め、無心に食事中。
 また部屋に戻り、こちらも米を研ぎ味噌汁をつくり… するうちに、家人が二階から降りてきた。おはよう、おはよう。なんかいたよ、家の目の前、すぐそこに。なんか食べてた… 落ちてるよ、すぐそこに。
 二人で見に行く。だが、もう何も残っていない。あれっ、ここにあったのに。

 アライグマ(タヌキ?)がまず何かを食べ、その残りをハチが食べ、たぶんそれを上から見ていたカラスが持って行ったような気がする。しかし明け方、夜中から、庭ですごいドラマが展開されていたんだろうなぁ。
 カメの甲羅だったんじゃない?とは家人の意見。肉が綺麗に削ぎ落されるほど… ひえ~。
 まぁ確かにスッポンが多い、この川は。サギもじっと立っていて、「わたし、ここにいませんよ」てな顔して、近くを通りすがる小魚をバクッ!とやるのだ。
 去年の夏はサルが出たというし、アナグマも来たしイタチもよく来る。シカはもちろん、モグラもいる。そんな田舎じゃないはずだが、基本的に田舎なんだろう。
 今もセミが。ワシャワシャ、ジージー、ジュワジュワジュワ… でも人間より、なんかイイナ…。