フルトヴェングラーのドン・ジョヴァンニ

 モーツァルト!
 フルトヴェングラーによる、1954年の舞台。
 いろんなドン・ジョバンニが you tube にあがっているけれど、これが僕のお気に入りです。
 役者さんの表情、衣装、演技、舞台装置、音の流れ…
 これ以上、このオペラのイメージに合うものはありませんでした ↓

 このオペラの魅力は── ドン・ジョバンニの生きざまだと思います。
 女たらし。放蕩貴族。放埓騎士。自由すぎた人生でした。
 殺した騎士長の亡霊に、「生活を変えよ」「悔い改めよ」と迫られても、彼は断固拒否し、地獄の業火に焼かれて行きます。変えられぬ自我、我欲をそのままに、とことん貫いた生涯でした。
 何度観ても、鳥肌の立つラストです。

 もう一本、現代的なジョヴァンニの舞台があったのですが、もう動画再生できなくなりました。
 そのラストが印象的でした、死んだ主人公が、まだ舞台から消えず、パンツ一丁で立ち尽くしているのです。何かキリストのような神々しささえ帯びて。

 でも彼は死んでいるので、かつて愛した女たち… 目の前を通りすぎる女の肩に触れても、「やあ」と手を上げても、誰も気づいてくれません。
 ですが、彼は自分の手を見つめ、腕を伸ばし、右から左へ振ってみせます。
 すると、地上にいる人間たちも、右から左へたなびくのでした。

 彼は、再び悪魔のような笑みを浮かべ、踊り出します。パンツ一丁で、それは凄い、バレエのような踊りでした。
 このラストは、ジョバンニがまだ死んでいないことを意味する、と解釈できます。
 どこに生きているのか?
 地上にいる人間たちの中に。
 彼が腕を振っただけで、人間は悪魔的に呼応して、たなびいてしまうということは、彼は地上にいる人間の心に、息づいていることになります。
 しかしいい死に様でした、天晴あっぱれです、ドン・ジョヴァンニ!

 最近気に入ってるのはこのジョヴァンニ ↑
 BGMのように聴きながら、キルケゴール(この人もこのオペラが大好きだった…「あれか、これか」で延々とジョヴァンニについて語っています)を読む… 贅沢すぎる時間です。