偶然の運命

 以前、職場で仲良くなったS君は、当時、気になる彼女に電話をしようかしまいか迷っていた。
 専門学校時代に知り合い、以来もう何年か連絡もとっていない。恋人でもなかった。

 ただ、なぜかS君の行く先々で、喫茶店とか何かの店とかで、偶然よく顔を合わせた、という話は聞いていた。
「かけてみなよ、電話。」ぼくはそう言った。

 S君は、何かタイミングをはかっているように見えた。いつ、電話をしたらいいのか。空気にそれを尋ねているような気配であった。
 後日、「電話、かけたんだけど、留守だった」というようなことをS君が言った。「これは、もう、やめろ、ってことかなぁ…」

 ぼくは笑って、幾分責めるように言った。「単なる、いなかっただけだろう。そんな…」
 S君も、そうかなぁ、そうだよね、というふうに笑った。

 後日、「かめさん、電話、つながったよ。今度ね、会うことになった。よかったぁ」と、純真なS君は嬉しそうに、でも分からない未来への不安も同時に噛み締めるように、その胸に相反するおもいを閉じ込めているふうだった。

 結局、彼女とS君は、一緒に住み始めた。

 また、ぼくのだいじなひとは(こんなぼくにだって、いるのだ)、インターネットで宿泊先を決める際、メールをしても全然返事が来ない憂き目にあっていた。
「縁がなかったのかな」と彼女は言った。

「いや、縁なんて…ただ見ていないだけかもしれないし、病気なのかもしれないし死んでいるのかもしれないし…」みたいなことをぼくは言った。
 結局彼女は別の宿をとった。

 よく、運命とか、縁、ということを、聞く。
 でも結局、それをはたらかしているのは、自分の意思のような気がする。