乙武洋匡さんのトーク・ショー

 先々週だったか、家人と行ってみたのである。
 入場無料、1500人入れるらしい講堂が満席。乙武クン(友達じゃないけど)、人気者である。

 当日の乙武さんは風邪を引いていると本人も言っていて、けっこう鼻声、大きな咳してたりして、いささか苦しそうだった。

 あんまり喋らせないで早めに終わらせればいいのに、主催者…、などと思いながら見ていた。

 西武グループが主催したトークショーで、お決まりの、お金を出した(?)会長やらエライ感じの人が、まず舞台で挨拶。

「こんにちは!」と会長。客席も「こんにちは」
「元気がないなー。もう一度、こんにちは!」と会長。(カンベンしてくれよ)

 この会長、乙武さんの名前を間違えたり、乙武… と、途中言いよどんで呼び捨てした瞬間もあったりで、なんなんだコイツは、と見ていて思った。

 たぶん乙武さんのことを何も知らず、ただ有名みたいだし客も呼べて西武グループのPRになれば万々歳、くらいにしか考えてなかったのではなかろうか、と邪推。

 ぼくも乙武さんの何を知っているわけでもないが、少なくとも「こんにちは」、元気なくてもいいじゃないか、そういう「元気ガイチバン」的な、1つの方向だけを「ヨシ」とする価値観、そういうものを、乙武さんはどちらかというと「それだけじゃなくてもいい」と考える人なのではないか、と想像した。

 トーク・ショーを見聴きしている間、ぼくは昔の自分のことを考えた。
 昔はぼくも「元不登校児」として、こういう舞台の上でなんだか喋っていた。
 慣れの問題もあるだろうが、大変だった。

 云いたいことが伝わらない空気だと、ここら辺でいっか、と自分に妥協したりして、ホントウに云いたいことは、ボヤけ始める。

 自分が主人公なんだから、云いたいことを云いたい。ぼくにはそんな傲慢な態度があったが、乙武さんにはそんな態度が見受けられなかった。

 あくまでも丁寧に、分かり易いように、言葉を喋って伝えていた。

 そんな優しく、懇切丁寧にしなくても、もっと豪胆に…
「問題発言しちゃうと大変だし、仕方ないんじゃないかな」と家人は言うが、聴衆はそんなに理解力がないのだろうかと考えてしまう。

 乙武さんはイイ男である。こういう人が何か言って、問題になったとしても、そこにはけっして悪意はないだろう。

 もっと乱暴な言い方でも、伝えたいことを第一に、トークしてくれれば、と思ってしまった。(でもたぶん、これが乙武さんの「素」なんだろうナ)

 1時間、乙武さんは喋って、30分は聴衆との質疑応答。
 乙武さんの云いたいことは、いろいろあったろうけれど、「魅力的な大人の姿を、子ども達に」ということを最後に言っていた。

 そしてまたぼくは自分のことを考える。
 ヒトのことを考える。舞台に立って、マットウなことを言えば、ヒーローみたいになってしまう情況を考える。
 べつに何の結論も出ないのだけど。