薄暗い、養鶏所のような大きな屋敷だか廃屋だかに、ぼくはいたのである。
学校にある共同トイレのような中の一室、そのうちの1つのドアの向こうに誰かが確実に隠れているのだ。
ぼくがそのトイレから、隠れている相手を刺激しないように慎重にそっと扉をあけて外に出て、音を立てないように扉を閉める。
トイレの一室にこもっているものは、生物であることは確かなのだが、そして人間に近いことも確かなのだが、なにか攻撃的な凶暴さが感じられたから。
ぼくが2階にいると、下で電話が鳴ったのだ。
すると、さっきの人間に近い生物が電話をとった。何か話してるようなのだ。
ぼくはその人間に近い生物が気になって仕方ない。
電話に出て、話ができるということは、人間なのではないかという考えも、頭をもたげる。
ぼくはそっと、相手に気づかれないように階段を降りる。
だが、その生物はぼくの気配を感じ、とっさに炬燵の向こう側に身を隠し、顔を伏せて受話器を握っているようなのだ。
炬燵越しに、突っ伏しているその生物の後ろ姿が見えた。
頭に髪はない。肌は黒ずんでいる。黒い洋服のようなものを着ていた。
あ、ジェイソンだ、とぼくは思った。
「13日の金曜日」の、あの殺人鬼・ジェイソンである。
だが、目の前にいるジェイソンは、ひどくおびえているばかりだった。
かわいそうに、とぼくは思った。
彼は、人間を信じられず、あるいは人間からかつて深い傷を負わされて(精神的にも肉体的にも)、ひっそりと隠れるように、この養鶏所のような廃屋のような屋敷に、ずっと身をひそめながら暮らしてきたのだ。
ジェイソンは顔が醜いらしいから、それをぼくに見られたくもないのだろうとも思った。
ぼくがその屋敷を出ると、細い路地には警官が1人歩いていた。ぼくは、ジェイソンがあそこにいる、ということを、知らせたい衝動に駆られた。
でも、言っても、信じてはもらえないだろうと思った。
別の路地にも警官が数人歩いていて、広い通りには警官が大勢あふれていた。
警官ばかりの町だ。警官しか、いなかった。
ぼくは、ジェイソンを、守らなくては、と思った。
ジェイソンには、可愛い、ルノワールが描きそうな幼女が、妹にいることを、ぼくは知っていた。
ジェイソンが、その妹を、とても愛していることも。
そこで目が覚めた。
昨夜見た、夢の話。