思いがけなく、突然ザーザーと降り始める。
一雨来るかな、という雲、湿っぽい空気、なまぬるい風に、「かな」とは予期するも、降り出した雨が轟然と未来も過去も、まるで何もかも路溝へ洗い流す。
しかし不意にそれは止まり、あっけらかんと陽が雲間から差す。
セミがまた鳴き出したりする。
緑の匂いが地面という地面から立ち昇ってむっとする。
風の通り道、裏庭から表へ抜けて吹いてくる風が清涼で心地いい。
飾り荷物を頭に翳して駈けていた忙人が、運命的な驟雨をどこか恨めしげに濡れた衣服とともに歩き出す。
商店の軒先で雨宿りしてやり過ごした老いた悠人は、そこだけ濡れたズボンの裾を気にしながら仕方ないように歩き出す。
犬が小屋から出てブルブルと身を振るう、
けやきの葉裏に隠れていたカマキリが身づくろいをはじめる。
夾竹桃の細長い葉、ヤツデの大きな葉、白いユリの花、ほおずき、おしろい花達も、じっとそこにいる。
先祖が家に帰ってくるというお盆。
迎え火、送り火、キュウリとナスに、4本の足。
仏壇、仏壇、ああ、みんな死ぬ、みんな、死ぬ。
小さな電球のまわりに被さった万華鏡のような模様のある筒が、くるくる惰性で回って彩った、暗い部屋に映えた提灯の置き物。
先祖が、知らない死者が、見えない姿で家の中、どこかにいると思うと、少し恐かった幼少の頃。
わるいことは、できないと思った。
夕立があって、陽が射して、夏の一時。
一時だったのに、まるで永遠のように身体の中に残っている、この感覚は何だ?