笑い

 自分では何気ない一言、何の奇もてらわない一言が、相手にやたらウケてしまう。そんなことが、ここ最近立て続けに起きた。本気で笑われてしまうのだ。
 先日、ぼくは鍋をつくった。糸コンニャク、ゴボウ、人参、白菜、マイタケ、鶏肉、大根などを入れて火を通した。鍋の中は混沌と化した。が、人参はここ、ゴボウはここ、と、おおよその見当はついている。自分がつくったからだ。ただ、上から大量に放り込んだ白菜が、すべての具材を覆っていた。
 で、フタを開けた家人に説明する。種々の具材のありかを。「ゴボウは左上にあるから」
「左上!?」彼女が爆笑をはじめた。
「いやいや、左上… え、左上だよ」
 北西だよ、地図でいえば、とも言ったが、彼女の笑いが止まらない。「わかるけど、左上ねえ…」
 左斜め上、かな? ぼくはしどろもどろに言った。
「ナナメ?」
 まぁとにかく美味しかったらしかったから、よかった。

 今朝は今朝で、プラスチックゴミをまとめ、あとは出すばかりにして玄関のところに置いていた。
 起きてきた彼女がそれを見て、「今日木曜だよ」
 あ、そうか。そうだ、今日は燃えるゴミの日だ。
「一日先行っちゃったんだね」そう言って彼女がトイレに行く。
「タイムトラベラーだから」何となくそう言ってぼくは自分の部屋へ行こうとした。
 と、また彼女は笑いはじめた。止まらぬ笑いがトイレにこだまする。
 えっ、なんでそんな…
「ミツル(ぼくの本名)が言うから可笑しいんだよ」彼女がのたまう。
 ぼくには自分というものが、また彼女の笑いのツボのようなものが、永遠にわかりそうもない。