セリーヌのこと

 二十世紀を代表するといわれる(ほんとかどうか知らないが)フランスの作家、セリーヌ。
 その代表作といえば「夜の果ての旅」「なしくずしの死」。あとの作品は高価なので入手し難いが、安値で売られていた「城から城」「死体派」は手に入れ、今はその死体のほうを読んでいる。(死体のほう…、笑、←笑うな)
 読むのに時間がかかり、夜風呂に入っての数十分、昼は眼の調子のいい時に限るから、たいして読んでいないといえばそうなる。
 たぶん代表作を除けば、ほとんどが文句、この世界・社会への怨嗟、罵り… 現代でいえば「陰謀論」を根拠におく啓発的な本、と言えるかもしれない。
 ジッドが「セリーヌの書くのはすべて幻想だ」というふうに言ったのも、ここら辺に由があるのかと思う。

 フリーメイソンとかユダヤ人とかロスチャイルドとか、まぁこの世は、世界はそういった者たちに牛耳られている、と。
 映画館、テレビ、新聞雑誌、広告、… 現代でいえばネットなんかがそうなるだろう、ぼくらはとんでもなく頭のいい、狡猾な、そういった者たちに、抵抗する術もなく操作されているというのだ。
 セリーヌにはよほど確証があったらしい。戦争も、その操作の一つだという。

 読んでいるぼくには、何が本当か全くわからないが、その社会・世界批判、よくそこまで罵りの言葉、悪罵を延々と続けるセリーヌの情熱を本当だと思う。読んでいてイヤになる時もあるが、結局おもしろいのだ。

 毒といえば毒である。「健全な」ものではないだろう。しかしセリーヌの情熱、熱量はそんな毒をはるかに上回る。魅力的な人間だったと思う。
 もう、しばらく離れられそうにない。カラマーゾフを読む予定だったのに。
 ドストエフスキーもすごい執着と持続、情熱の持ち主に違いなかろうが、セリーヌのそれはあまりにちょっと、常軌を逸している感がある。今までの文学に飽き足りない人に、というフレーズをどこかで見た。文学なんて、そんな知っちゃいないけれど。

 生活、人生みたいなもんをやっていく上で、いちばん大切なもの。きっとそれは情熱なのだと思う。
 セリーヌの影響を受けると、ここに書くぼくの記事も妙な方向へ行ってしまいそうだ。でも、あんなふうに大胆に、思いっ切り書いたっていいのだ、それで読む人が離れるとしても。
 こわごわ、やっていこう。情熱、根幹にはこれを置いて、生活全般も、ほそぼそとした文章活動も…。