「私」の時代

 もっと面白いものを書いてたろうに。読者によく訴えるような、友好的に、けっしてトゲをもたず、もったとしてもそれは社会の構造に対してで、もっと読み易く、とっつき易い、明るい文章を書いていたろうに。もっとよく読まれていたろうに! コメントもよく来て、ブログ全盛時にはランキングの一位にもなっていたろうに。
 もうお前さんは時代遅れだよ。内面世界、精神的なことなど、カウンセラーや精神科医、権威、資格をもった有識者・・・が、専門的な人間が口にして初めてニーズがあるというものだ!
 悩み事なんかもね、人間関係さえ分業の時代なんだ、病んだ人はそっちへ行くよ… 友達なんか信じられないんだ、暇つぶし、退屈しのぎでしかないさ! だからやさしい・・・・関係さ! 真剣な話は場を濁すからね!

 そのうち自慢話をし出すだろうよ…
「わたしは東大病院に行ってるの! 作家の〇〇も来てるのよ… 薬もよく効くし、とってもいい先生なのよ! よく話を聞いてくれるし… わたしのことをほんとうにわかってくれるの!」
「あら、KО病院に行ってるのよ、わたし。あそこには作曲家のSさんが来るの! 待合室で隣りになって… 漫画家のОさんも… オーラが違うのよ、オーラが! ジョジョ立ちしてる姿、カッコよかった! スタンドも見えるようだったわ… 先生も素敵でね、わたしのすべてを見透かすようなのよ!…」
 資格、学歴、見た目、権威、これに勝るものはない… いつまでたってもね!
 お前はそれを否定してきたわけで、もうどうしようもないんだよ。

 そのうちランクづけがされるさ… 〇×失調症は「まだまだだね」、△□病は「いいセン行ってる」、××症は「全然ダメじゃん」、□□病は「すげえじゃん、憧れるぅ!」
 心に、よくぞこんな、ばかみたいな病名がつけられるものだ! 心だよ、身体じゃないんだ… わざわざ不自由になりに行く心! 名前をもらって、社会公認の、心の病! さあ、ハラスメントだ、やれ差別だ人権だ、コンプライアンスだ、何だかんだ…

 おい、待て待て、こんなことを言いたいわけじゃなかったろう、耄碌もうろくしたな! もう頭の整理もできないとは! 今はトゲを丸める時代なんだよ! 言い方に気をつけ給え… そんなこったから見向きもされないんだよ… 友好的処世、それが偽りだろうが、友好的ならいいじゃないか、え? 友好的に、笑顔をつくって、バレないように、おしとやか・・・・・に、お上品・・・に行くべきだよ… 自分を殺し! お気に召されるために! 香水をつけて、おめかしをして、出掛けるんだよ!
 否定してはいけない! これが鉄則だ、ハリネズミはどんなにやさしく・・・・ても、ダメなんだ。
 外へ向かい、内に向かい… 分け隔て・・・・のある、素晴らしい世界なのに。何を嘆いているんだい?