自分は悪心を持っていると自覚しながら、それでもなお、その心のままに行なう人が在る。
 彼の言い分はこうだ、── こうして、やってきたからね。こうして。妻子を養い、仕事をして。こうして、やってきたんだよ。こうして!
 矯正する気など、さらさらない。むしろ、それを誇っているかのようにさえ見える。何と哀れな存在、何と救いようのない… そうしないと、やってこれなかった、それは彼の自我が? それとも、この社会が? 彼のやってきた、その世が? そうさせた、彼をそうさせたのは何だったろう?
 彼だって、そんなこたぁ考えちゃいない。考えたら、止まってしまうからね。
 見栄を張り、地位にこだわり、仕事中も手を抜くこと、楽をすることばかりに勤しみ… 「自分はこんなにやりました!」と、ない成果を、さもあるようにして「上」の人にさりげなく、それでいて強く、訴え出る演技──
 そのような仕事ぶりの人が、今度社員になるという。アルバイトだったのに。70をもう越えてるのに。夢があるねえ!
 彼がどんな嘘をついても、まわりは容認する。腹の中が煮えくり返っていようとも。どんな理不尽な指図も、異を唱えず。ハイ、とその指図に従う… 彼らも、そうやって、やってきたんだ…
 そうして続いて行く。変わるわけがない。
 素晴らしき哉、我が人生!
 ほんとかね。
 そんな生なら、歩みたくないもんだ!
 … 安心しな、お前は歩めないよ…