セリーヌ全集12、「苦境」が面白い。この人の書くものはぜんぶ面白い、ほかの作家が読めなくなるほどに。その内容は、第二次世界大戦が始まろうとした時代に押され、「反戦」のメッセージ、ユダヤ人批判(この批判、激しすぎる否定はセリーヌにとっての真実だったと思う…)ばかりを書くことになったが。
フランスがドイツと戦争を始める時、この人には戦争に無関係なことは書けなかったのだ。「夜の果ての旅」からそうだった。戦争とともに生き、その体験を幻想と一緒に書き続けた。呪われた作家と言われるが、この人はその時代と自分の運命をまるごと受け止め、書き続けた。
「苦境」でもちゃんと言っている、「ユダヤ人たちはかわいそうだ」と。その前後の脈絡から、この同情の言葉も様々に解釈されるだろうが、セリーヌが優しい、人類愛、言葉にするといきなり胡散臭くなるが、人間に対する情愛に満ち満ちた人だったとぼくは信じている。
憎しみは、愛し合うまでの道程… その憎しみを、多くの作品にぶちまけたのだと思う、言いたいことは「愛し合えばいいんだ」それだけだったと思う。でも愛し合えない、なぜか? 憎しみ、嫉妬、社会、制度、人── 愛(ああ!)を拒否する、愛の光合成を妨げるものを、嘔吐するようにぶちまけた。それを、こちらも受け止めること。受け容れること。セリーヌを読むのはキツい、でも必要なことなんだ、そんな気持ちで読んでいる。
この「苦境」はまだ序盤だが、慣れてきたせいか落ち着いて読めている。他の作品全般にも言えると思う、面白いから読もうとする。面白くなくても、何を言ってるかよく分からなくても、どうしてか気になって、読もうとしてしまう…。書物は、人との出逢いだ、もっと知ろう、もっと知りたい、となる。
高価なことだけがネックだ。「虫けらどもをひねりつぶせ」。もうすぐ東京に行く、神保町の古本屋にそれはあるのだが。いくらプライスレスな「作者との人生共有体験」ができるとはいえ、まずプライスがある。