夜とぎのマドレーヌ

 先日、朝日新聞社の「世界名画の旅」を開いてみた。
 何年か前、古本屋で見つけたもの。

 その中にラ・トゥールの「夜とぎのマドレーヌ」という作品がある。
 暗闇の部屋、机上にろうそくが一本。
 淡い光に照らされて、頬杖をつき、女が一人その光を見つめている。
 その膝には|髑髏《どくろ》が。
 丸い、物言わぬ髑髏に、やさしく撫でるように手を添えている。

 いい絵だ。
「女占い師」という絵も載っていた。
 どちらの絵も、時間が止まっている。人物は、何も喋っていない。

 一瞬と永遠
 沈黙と雄弁
 静謐と喧騒

 相対するものが一つになって。
 相対するものなど、あったんだろうか。

 なかったんじゃないか。
 対立するものなんて。
 そう思わされる。

 いい絵だ。