メッセージ

病気は身体からのメッセージという。
風邪も病であるとしたら、この冬はほぼ毎日、このメッセージを受け取っている。したがってほぼ毎日、葛根湯を飲むことになる。いくら漢方とはいえ、薬はあまり飲みたくない。で、一日一回か二回の服用に留め、微々たる抵抗をしている。

だが、最も抗っているのはこの寒さに対してである。寒いと感じる自分に対してである。
自分は身体の弱い子供だった。数分のバスに酔い、新幹線に乗っても吐いた。それがいつのまにか船旅をしても酔わない大人になった。
ベラウ共和国(旧パラオ諸島)までの約十日間の船旅。途中、ずいぶん船が揺れた。同じ船室にいた人が寝たきりになり、ダウンする人が多かったせいか、船内も閑散しとした。

その時、親しかった友達が向こうから歩いて来て、揺れによって壁に体を当てながら、「この揺れ、最高!」と言ったのだ。虚勢でなく、本心、揺れを楽しんでいるのが分かった。彼はいかにも、前後左右に揺れる船の激しい動揺を、心から楽しんでいた!

私も、何となく気持ち悪いなとは感じていたが、この友の姿を見て、これだ、と思った。
揺れに、抵抗するから、いけないのだ。この揺れに同化して、楽しめばいいのだ。
私は、喜々たる友と一緒に、この揺れを楽しもうと思った。そしたら、ほんとに楽しめたのだ。

彼は彼でどこかへ行ったので、私一人で楽しむことになったが、ああ確かに波も動き、地球も動き、この動きを感じられるというのは素敵なことだ、と心から思った。

だが、風邪。これに対してはどうしていいのか分からない。元々低体温なんです、とは医者から言われたことはある。平熱が、一般と比べて低いらしいのだ。だから熱を下げる薬より、身体を暖める葛根湯が良いですよ。

そう言われて以来、風邪をひいたら葛根湯のお世話になっているが、そもそもの原因は私の身体にあるのだ。常人以上に、寒さを寒いとしてしまう。実際、ほんとうに寒いと感じる。

この寒さを、私は空気に感じる。足元からの、地下からも感じる。そうして毎日ぶるぶるふるえてる。たぶん私が死ぬとしたら冬だろうと思う。寒さのせいであると思う。心臓がたまに、冷気に掴まれる。冷気が、私を「あっちの世界」に持って行こうとする…

気持ちの問題でなさそうなのが困る。

しかし、ずっと一緒にやって来た身体さんからの訴えなので、こちらとしても黙って聞くしかない。せいぜい、家人が昨日アマゾンか何かで注文した「あったまるスリッパ」と新しいスパッツの到着を待つのみである。やるだけのことはやっている、この身体さんに対して。毎朝、泣きそうになりながら、暖かくなるはずの衣類を装着して。

沖縄にでも引っ越したら、私の人生も変わりそうな気がする。だがこれも運命なのだと思う。底冷えのする盆地の中に、どうしたわけか一人の女と一緒に暮らしている。きっと、自分は幸せなのだと思う。