スピリチュアルな歯科医

 家から歩いて25分ほどの所に、一風変わった歯医者がある。家の近くにも4、5軒あるのだが、通り越して、ぼくはそこへ行く。
 その歯医者を知ったのは、ホームページからだった。近くに良さそうなのはないかと検索していて、行き当たったのだ。
 「ワンネス」とかいう思想が、その歯科医のHPに、長々と書かれてあった。
 Q:それは何ですか? A:これはこうです、と、いろんな質問に丁寧に答えてあって(歯に関することでなく)、へえ面白そうだと思ったのがきっかけだった。
 要約すると、「ワンネス」とは、「もともと我々はひとつであった」という意味らしい。そこから、ビッグバンだか何だかで個々になって云々、現在に至る、といったような話だったと思う。

 医長自身の、個人的な思想が事細かく記述してあること、それが面白い考え方だなあと思ったことで、この歯医者に行こうと決めたのだ。他に、こんなことを書いている歯医者はいなかった。
 実際に行ってみると、特に何ということのない、ごく普通の歯科医だった。待合室に、食事に関する本が多かった。お米が良いとか… 健康に関する冊子、スヌーピーの哲学的な本もあり、いわゆるチャラチャラした週刊誌等は無かったと思う。受付嬢が、すごく美人だった。

 通って3回目くらいの時に、何かの弾みで学校の話になり、ぼくがあまり学校に行っていなかったことや、大検から大学に行った話をした。すると、医長の20歳になる娘さんも、あまり学校に行っておらず、大検のことも考えたが、今は埼玉かどこかの山にひとりで住みたいとか言って、もうすぐ引っ越すという話だった。
「そう、学校行かなくても、べつにいいんですよね」
「そうそう、おかしいよね、何を教育してるんだって。保護者の会で、わたしはうるさがられてね…まあ、歯医者やってるんだけど…」
 みたいな話になって、いささか盛り上がったりした。

 小綺麗な、どこにでもあるような医院で、お客さんもフツーの人で、全然思想的な場所ではなかった。医長は、その考え方に関する本も出版しているらしく、受付嬢に買いたいと言ったが、図書館にありますということだった。
 こういった歯医者が近くにあると、心強い。
 ところで、医者はもっと、「自分の考え」といったものを、ホームページなり何なりで開示していいのではないだろうか。

 内科であれ外科であれ、人の命に直接手を触れるような仕事なのだから、患者との信頼関係が最もだいじなのではないだろうか。
「こういう考えの、こういうお人柄のお医者さんなら、命をあずけよう」と患者が思えるような、そんな関係というのは、ムリなのだろうか。
 医療ミスが、たまにニュースで取り沙汰されている。失敗は誰にだってある。でも、それを許せるくらいの、人と人どうしの信頼関係みたいなものが、医者と患者の間にあったなら…と思う。