オモチャ屋

 小学校低学年の頃、近所の商店街にあったオモチャ屋に行った。
 ずっとずっと、欲しかったオモチャがあったから。
 それは店の中の、鍵の掛かったガラス戸の向こうにあった。

 そんなに高価なものではなかったと思う。
 でもぼくはそれが欲しくて、やっと貯まったお小遣いで、買いに行った。
 喜び勇んで。天にも昇る気持ちだった。

「これ、ください」
 奥のほうで、誰かと話していた店の主人に、ぼくは言った。
 鍵が開けられ、主人はそれを手に取った。
 そしてレジスターのある奥のほうへ行った。
 ぼくは後について行った。

「これなんかさ、ただ、クビが出るだけなんだよ」
 主人は、それまで話していた誰かに、そう言った。
 そして、ぼくの欲しかったそのオモチャのボタンを押し、バネ仕掛けで簡単に顔を出すだけのオモチャであることを立証して見せた。

 でもぼくはそのオモチャが、ずっと欲しかった。
 欲しかったオモチャが、やっと手に入る、至福の瞬間であるはずだった。

 だが、その主人の「ただクビが出るだけ」と言う言葉、「これなんか」という言葉に、ぼくは打ちのめされていた。
 嬉しいはずの気持ちが、悲しくなって、泣きたくなっていた。

 やっと買えた憧れのオモチャも、つまらないものに見えた。
 がっかりしながらお金を払い、ぼくは店を出て、家に帰るために商店街を歩いていた。