生きること

「それにしても、生きているんだよなあ」
「おうよ。おけらも、みみずも、あめんぼも」
「なんで生きているのか知らないままに」
「知ろうとするより、よほどいさぎよさそうだ」

「人間の知恵なんて、たいしたものじゃないね」

「鶴の足が、長すぎるからといって切る。亀の足を、短かすぎるといって付け足す。
 人間が考え、判断することは、それと同じで、無用なことばかりだ。
 何もしなくたって、木の実は成り、魚は泳ぎ、馬は走る。
 何かしなくちゃいられない人間は、哀れというより愚かだよ」

「貧富、賢愚、優劣の差別をつくり、何をしようとしているのかね」

「権力を握りたい人間がいることは間違いない。
 でも、権力を握った人間は、悪に染まるらしい。
 たくさんお金をもって、節操のないことができる環境があるというのだ」

「プラトンは、選挙なんかで立候補する人間を認めなかったね。
 野心のない、こんな私じゃムリですよ、という人間をこそ、そういう立場に挙げたという」

「ユートピアなんか無いにしても、それに近づこうとするどころか、どんどん離れていく感じがするなぁ」
「教育の成果といわれて久しいね。何も考えない、ただ器用なだけの、命令に従う人間がつくられた、と」

「まあ、こうなったのも自然といえば自然なんだろう」
「生きる意味なんか考えても仕方ない。といって考えなければ、それこそ何の意味もない…」

「誰もが笑顔で幸せに、なんていうのもウサンくさいね。
『こうでなくてはならない』なんていうのには、ムリがある。ぼくら、鋳造の、鋳型ではないんだから」

「ところで、われわれのような人間は、生きていけるのだろうか」
「さあ。どうしたわけか、生きているからなあ」