なんで悲しいの?

「死ぬな! 死なないでくれ!」
 病床の妻を看取る、いまわの際。
 こんな時でさえ、人は自分のことしか考えていない…
 すなわち、「俺を置いて行かないでくれ! 俺をひとりにさせないでくれ!」
 最愛の人は、いつも自分だ。エゴエゴエゴ!

《その人の死が悲しくて泣いているのではない。残される自分が悲しくて泣いているのだ》

 この人間に、本当に人のために立ち振る舞えることができるとでも?
 ── いいんだよ、それで。我が身可愛く。
 我が身可愛く、我が身可愛く。
 その我、何億人の我が、この世、つくって。
 なんと、愛に満ち溢れた世界じゃないか。

 その我のなかに、ほんの1ミリでも、《人間》のことを考えてくれさえいりゃあ!