上も下もない場所

 それにしても、何だって裁かれること・・・・・・を人間は望んだんだろう。

 罪を与えるものの正体を暴こうとせず、罰ばかりを望んだのだろう。

 あいつはこう言ったな、「『何もしない』無為自然の思想が出た時はヤバかった。自然に任せる… あんな思想、世に蔓延ったら、まいったよ。あちきだって、何もできやしない。しかしあんな思想が多数の人心に食い込まなくてよかった。もっとも、食い込みようのない思想だったが」

「あちきが望んだのは、自己判断とそれに伴う思考、そして行動をさせぬことだった。自分で、この世をなんとかしようとするような、そんな人間が現れたら、こちらとしてもちと困る。むろんそういう人間は、潰されるわけだが。共喰いする様は、最高のおかずだよ。あちきも人間なもんで!」

 ああ、あいつも結局、自分にしか興味がなかったんだな。

 こいつの方はどうだ。相変わらず、自分のことに忙しく、その日暮らしに勤しんでいるな。こいつも、他者より自己に興味が行っている。他者は、こいつにとって醤油かソースほどのアクセントづけだな、自分が楽しい食事にありつくための。

 どっちも、同じだな。動かしているものは、同じだな。