心の作用

 尊敬と嫉妬。
 尊敬も嫉妬も、自分が持っていないものを持っている人の内面に対して、生じる心である。
 尊敬も嫉妬も、同じ一葉。

 期待と不安。
 ドイツの画家、リヒャルト・エルツェの描いた絵に「期待」というのがある。
 これは灰色の絵で、暗く、橋の上から人々が、どんよりとした曇り空を眺めている絵。人々は、後ろ姿で、正面の空、それは近くにあるように見えるがきっと遠いのだ、その空と人間の間にあるのが「不安」であり「期待」である、とでも言いたげな絵。

 初めてこの絵を見た時、えっ、これが「期待」なのか、と思った。が、すぐ、ああ、期待か、と思った。すると、なんだか微笑めた。
 期待も不安も、仲良しなふたりきょうだいなのだ。

 一喜と一憂。
 おなじ、「一」。

 ── もしもし、やたら二つのものを「同じ」だと思い込もうとしてはいませんか。
 ── 同じから違いが生まれ、違いから同じが生まれます。だから違いも同じも無い。
 出生場所は… 心の目のなか、ですかね。