月あかり

 月あかりは、わたしの希望だ。
「暗い中でしか、明かりは見えない。だから永遠の暗渠もなく、永遠の白日もない」
 世はうつろう、わたしも一ヵ所にとどまることもない
 わたしは、わたしのあちこちから漏れ出している、現在・過去・未来を見る
 それらは、漏れるそばから霧散し、蒸発する
 けっしてとどまることはない
 たえまなく、流れ、動き、けっして止むことはない

 月のあかりは、わたしの希望だ
 暗ければ暗いほど、それは煌光となる
 死は、柔らかいベッドに見える
 不幸は、僥倖に見える
 憂鬱は、やさしさに見える
 わたしは、コビトのように小さな人間なので
 この手はすぐいっぱいになる、
 生、幸せ、快楽にまで、手が回らない

 月のあかりが、わたしの希望だ、
 雲に覆われれば、その向こうにいる月を想像する
 絶望も希望も わたしがつくっている独創物
「何も思わず、いればいいんだよ」
 月が言う、
「ただ、生きてるだけでいいんだよ。そこにいるだけで、いいんだよ」