(16)満たされない原因は – 2

 彼女が買い物から帰ってくると、福はトトトと小走りに玄関に向かう。
 そしてマットの上で、あのドタッをやる。
「ここ撫でて」と、仰向けになってアゴをクイとやる。
 ただいまぁ、と言いながら彼女は微笑んで福を撫でる。

 ここまでは私と同じだ。
 だが、それから福は一向に立ち上がろうとしない。
「いつまで経っても、福、ずっと撫でてほしそうなの。キリがないの。もう、無限!」
 以前、彼女がそう言っていた通りだった。

 私が帰宅した時の場合、福は数秒撫でられれば立ち上がり、キッチンへ行ってカリカリご飯を食べたりするのが常だった。
 しかし、彼女に撫でられる福は、まさに「永遠に撫でてて」というふうに、仰向けになったまま動かないのだ。

 彼女は我慢強く撫で続ける。しかしそのうち福は、感極まったように、カプッ!とその手に嚙みついてきたりする。
 そして彼女は微笑を失い、福への愛撫を途中で放棄することになる。

 そして福には、反省する気はなさそうに見える。
 彼女にも、福に対する不信が残る。
 ふたりは、このような関係を続けていた。

 … しかし、では一体、彼女はどうすればよかったのだろう? どう、するべきだったのだろう?

 お風呂に入る際、彼女は福が入ってこないよう、扉を閉めていた。
 自分の座った座椅子は、いくら福に肩をチョイチョイされても、譲ろうとしなかった。

 彼女は「自分第一・福二の次」を完膚なまでに貫いていた。
 この姿勢が、福に永遠の不満足を与えていた、と私には思われた。
 だが、そのような彼女を── 少なくとも私は、そしておそらく福も、好きになったのだということも、確かであるはずだった。

 打ち明ければ、私たちはセックスレスであった。
 健康な男子として私は、不満がなかったわけではない。

 だが、それでも彼女と一緒に暮らせることが、何より掛け替えがなく、ありがたく、大切なことと思っていた。(彼女も、その点では私と同じ考えではなかったかと思う)

 そんな自分と比べてしまえば、福はいささか彼女へ求めるものが、大きすぎる、とも言えた。
 だが、そんな一直線な、まがったところのない性格の福が、福の最大といっていい魅力なのだった。

 そして彼女が福に「与えるもの」と、福の「求めるもの」が一致することはなかった。
 ふたりして、「これでヨシ」とうなずき合える交点を、おたがいの要求、そして行為の中に見い出せなかったこと── これが、彼女に対する福の、一連のアタックの原因か、と私は乏しい想像力から考えた。